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毎日、映画のように🎬🍭📍🍿🌿

世界で一番美しい別れ

あらすじ

仕事一筋の夫と認知症の姑、不倫をしている娘、酒に溺れる息子、借金を重ねる弟夫婦...。問題の多い自分勝手な家族全員をいつも見守ってきた母イニの体が末期ガンに侵されていると知らされた時から、それぞれがイニの病、家族と向き合うことを始める...。

 

観想(ネタバレあり)

映画のプロローグは限りなく綺麗で上品で穏やかな時間が流れる……が、一変して変わる逃げ出したくなる現実が続く。その現実を一人で負う母で嫁で妻である彼女の人生は観るだけで心が痛くなるが、心優しい彼女にとっての毎日は自分に与えられた当たり前のやるべきものである。

 

その彼女に襲い掛かった病……。

死ぬのは怖い。私も生きたい。

母の死が近づいて、変わる家族の姿に心が痛む。
 
浪人生にも関わらず、酒に女に夢中で、勉強なんかまったく興味もなかった息子はやっと自分のやるべき事に目覚める。

大学の合格者発表までお母さんを生かして。大学に入って、勉強しながらバイトもするから。

不倫から自分を解放して幸せになる事を決める娘をギュッと抱きしめる母。

愛にも公式があるのね。未婚者と既婚者は思いを通わせない事

ギャンブルや女…問題ばかり起こし、お金目当てで暴力を振る舞った弟は唯一の血のつながったお姉さんが自分のため残してくれた生命保険で真面目に生きていく事を決める。
 
毎日のように暴れる認知症の姑はなんとなく嫁の死を予感している。
 
医者でありながら妻の病気に全く気付かなかった男は妻の残った時間のため自分をささげる。
 
新築した家で最期を迎えるため家を離れる夫婦。妻のため作った温室と押し花コレックション。いつも押し花を作っている妻を見て花が好きと思った夫。
私は花をよく分からないわ。花が好きなのはお母さんなの。本当に大好きなの。
夫婦二人だけの時間は短いが暖かい。お互い、すれ違った長い年月を埋める程の時間が残っていない彼らの時間は風に揺れる蝋燭のようにいつ消えてもおかしくない。
 
自分の遺骨は庭の松の下にとお願いした彼女は花びらのような雪がふる日、あの世に旅立つ。
 
母がない日常が続く中、その日常を支えるのは母が残したメモ。至る所で貼られているメモは母の心配であり、愛情であり、自分の生きた痕跡でもある。
 
死を迎えた家の庭。松の木の隣に立たれた木製の掲示板に書かれている言葉が深い余韻を残して映画は明るく幕を閉じる。
よく見てこそかわいい
長く見てこそ愛らしい
君もそうだ
ナ・テジュ詩人の『草花」という詩選集に入っている詩だそうです。
 
詩を読んで、その優しい言葉で心から涙を流した人も多いとか。映画ではエンディングに出てきますが、とても素晴らしいチョイスだと思いました。
ナ・テジュ詩人の本はアマゾンでも購入できます。
アマゾンの本の紹介で「長く見てもきれいだ 君もそうだ」と訳されている本がありましたが、「長く見てこそ愛らしい」がより正しい翻訳になります。家の中でもすれ違うがちな夫、娘、息子。その家族の顔をあなたは長く見た事がありますか?いつもなんだかんだと忙しいとばかりで、家族の顔をよく見た事があったか……しかも……長く見た事があったかと考えさせる詩だと思います。
 
映画を観終えると、自分もあの時が来たら映画のような「美しい別れ」ができればと思うようになります。そのため、今を懸命に生きていかなくちゃ……とも。
 
韓国でもトップレベルの俳優さんが主演を務めるので、その演技も楽しめます。今を生きる私たちにおすすめの映画です。