あらすじ
高利貸しの手下で借金の取り立て屋ユンと、ベトナムの伝統歌劇<カイルオン>の花形役者リン・フン。全く接点のないはずの二人があるきっかけで知り合い、友情にも似た感情を互いに抱く。ユンは過去の記憶に囚われながらも新たな道を進もうとするが、その罪は償うにはあまりにも大きく、抗えない運命が迫っていた……。(C)2018 STUDIO68
ソン・ランとは?
ベトナムの民族楽器で、楽曲の最初と最後で用いられる。直径約7センチほどの中空の木の胴と、弾性のある曲がった金属部品と、その先に取り付けられた木の玉からなる打楽器で、伝統的な室内楽の拍を打つのに用いられる。演奏者、役者双方にとってリズムの基礎となり、ベトナムの現代大衆歌舞劇「カイルアン」の音楽の魂であり、公演には欠かせない。なお、「ソン・ラン」とは「二人の(Song)」「男(Lang)」との意味もある。
カイルオンとは?
20世紀初頭のベトナム南部で誕生し、1930年代のフランス植民地下、中産階級の劇場で花開いたベトナム南部の大衆歌舞劇の一つであり、いわばベトナム版オペラ。特に60年代のベトナム南部で人気があった。ベトナムの民謡、古典音楽、現代演劇の集約である。
セリフ
役者に礼儀か。
フンは恋の経験がないのに演技は上手だわ。
観想
あまり期待せず観始めた映画で心が深く入る時、ありませんか?私には「ソン・ランの響き」がそうでした。
周りからは雷の兄貴と呼ばれ恐れている、冷酷な借金の取り立て屋「ユン」と役者なのに人の集まりが苦手で、酒もビール二杯が精一杯の「フン」。
最悪の出会いから、すれ違った彼らが偶然同じ場所で思わぬ再会、その後…二人の淡々とする一日がとても心温かく、切なく、流れます。
心に両親に対する深い傷を背負ったまま、生きてきた二人。
二人が一緒に時間を過ごしたその朝から、スクリーンに溢れる光がとても印象的です。ユンの部屋に差し込む光、階段を照らす朝日、町の朝もが光に包まれている感じで、これからの彼らを守ってくれる兆しのようで、ほっとする気持ちになります。
が、運命は思わぬ方向に動き出します。
なぜ…と叫びたくなる残酷な彼の運命がどうしても受け入れる事ができません。でも、ある意味で考えると、あの日の一生一回の最高の演奏で彼は自分のすべてを尽くしていたのかもしれません。
ユンを思いながら、彼に届ける事ができないプレゼントを手にして、雨の中、少し前までユンがいた場所とも知らず、そこに立つフン。
ユンが読んでいた本には彼が引いた線が鮮明に残っていました。
フンとの出会いから、やっと過去を煩う事こそが悲しみの原因だと気づき、今までの自分を見直し、これからの自分を立て直そうと、希望とワクワクに満ちたあの瞬間を無惨にも壊されたユン。エンディングに流れるこのシーンはそのような人生を送る事ができなかった彼の遺言のようで、その人生の矢先で消えてしなった未来が残念でなりません。
映画の中の芝居「ミー・チャウとチョン・トゥイー」」。生々しい芝居の裏舞台、観客席の反応なども映画のアクセントになります。
「敵対する国の王子と王女が、婚姻の契を結ぶが、戦に巻き込まれ引き裂かれる悲恋物語」は彼らの運命とも言えるでしょうか。
素晴らしい演技にも目が離さない「ソン・ランの響き」、自分の中では星5を超える映画でした。