
あらすじ
アメリカの田舎町、心優しい青年ギルバートは、知的障害を抱える弟と過食症の母と2人の妹の面倒を見ながら日々を過ごしていた。
ある日、ギルバートは街にトレーラーハウスに乗った少女ベッキーと出会うこととなり、彼女に惹かれるようになるが… (AmazonPrime)
とてつもない贅沢
『ギルバート・グレイプ』は、私にとって本当にぜいたくな映画でした。

派手な物語でも、大きな奇跡が起こる話でもないのに、観終わったあとぐっと心の奥に残ります。そして何より、ジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオの若いころの姿を同じ画面で見られることが、いま思えばどんなに貴重なことだったのかと感じます。
ジョニー・デップもまた、静かでやさしい、素晴らしい演技でした。
私が大好きな『シザーハンズ』のころの彼とどこか重なって、繊細で不器用なあたたかさがありました。華やかな役柄よりも、私はこの映画のギルバートのような人間らしいジョニー・デップが好きです。
Lamson’s Grocery

映画『ギルバート・グレイプ』でギルバートが働いていた Lamson’s Grocery。名前を見た瞬間、なぜか日本のコンビニ LAWSON を思い出しました。アルファベットの響きが似ているせいだろうか、「L」で始まって「…son」で終わる、その偶然のリズムに、ちょっとした親近感を覚えたのです。映画の小さな町と、日本の日常にあるコンビニが、文字の音だけでつながったような不思議な感覚でした。
マイ・サンシャイン
映画の中で、お母さんはアーニーを「マイ・サンシャイン」と呼びます。
その言葉を聞いたとき、太宰治の『斜陽』を思い出しました。手紙に出てくる「マイ・コメディアン」という呼びかけとどこか繋がっているような気がしたからです。
「マイ・サンシャイン」――誰かにとっての太陽であり、希望であり、同時に胸をしめつけるほど大切な存在。その響きが、母の愛と静かに重なりました。
空

空について語る場面も心に残っています。
「空ってすてきね。見ているうちにゆっくり変わっていく」
「広くて、吸いこまれてしまいそう」
そんな会話が流れる時間は、ギルバートにとって束の間の癒し。けれど彼はまた家に戻ります。弟をお風呂に入れるという日常の役目のために。その行為はたしかに愛であり、同時に逃げられない義務でもありました。そのあいだで揺れる姿が、どうしようもなくせつないのです。
トレーラーハウス

そしてもう一つ、トレーラーハウスの魅力にも心を動かされました。
ベッキーのトレーラーハウスは、質素なのに自由で、風が通り抜けるように明るい。好きな場所へ動いていける暮らしがまぶしくて、いまトレーラーハウスが人気だと聞くのもわかる気がします。もういい年になった私にも、「いつかあんなふうに住んでみたい」という小さな夢が生まれました。
残る謎

この映画には多くの謎も残されています。
父の自殺、家から出られなくなった母の心、不倫相手の夫に起きた出来事――どれもはっきり語られないまま、生活の底に沈んでいるだけです。母は生きることを選んでいるのか、それとも静かに自分を手放しているのか。答えはわからないけれど、彼らが最後に選ぶ行動には「母を恥にさせたくない」という深い愛があり、胸が熱くなりました。
まとめ

この映画は、家族の重さも、愛のあたたかさも、どちらも嘘なく抱きしめています。家族はきれいごとだけではないけれど、それでも人は誰かを思いながら生きていく――この映画は、そのことをそっと抱きしめてくれるような作品でした。
せつなくて、やさしくて、答えの出ない問いをそっと残す『ギルバート・グレイプ』。この映画に出会えて、本当によかったと思います。
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